著者が語るWiley新刊 – 第8回 創薬のための計算的手法の専門家 Sean Ekins博士による “Collaborative Computational Technologies for Biomedical Research”

この「著者が語るWiley新刊」シリーズは主に日本人著者の方にご登場いただいてきましたが、今回は、昨年刊行された Collaborative Computational Technologies for Biomedical Research の共著者のお一人である Sean Ekins博士に、自著を語っていただきます。Ekins博士は薬学者で、Collaborations in Chemistry社でシニア・コンサルタントとして、またCollaborative Drug Discovery Inc.社でCollaborations Directorとして勤務する傍ら、メリーランド大学で教壇にも立っています。これまでに本書を含めて4冊を編者として出版、またPharmaceutical Research誌でEditorを務めるなど雑誌の編集にも活躍しています。本書では特に、共同的な創薬研究を進める上での計算的手法の利用に焦点を当てています。

Collaborative Computational Technologies for Biomedical Research
Edited by Sean Ekins, Maggie A. Z. Hupcey & Antony J. Williams / Foreword by Alpheus Bingham
ISBN: 978-0-470-63803-3
Hardcover / 576 pages / June 2011
US $135.00
(タイトルまたは表紙画像をクリックすると、リンク先で目次など詳しい情報をご覧いただけます)

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Maggie Hupcey、Antony J. Williamsとともに編集して2011年に出版した本書について、Wileyの日本語ブログに寄稿するよう依頼を受けました。自己宣伝のようでちょっと気が引けますが、この場を借りて本書についての私の考えを伝えるとともに、読者の皆さんが類書に寄稿する際のヒントを提供したいと思います。

最初に、私の研究のバックグラウンドに触れておきたいと思います。私は臨床薬理学者で、特に前臨床での創薬についてトレーニングを受けてきました。これまでに大手の製薬企業や設立から間もない小企業での勤務を経て、現在は生命科学および消費者向け製品の分野で企業コンサルティングに携わっています。私は年齢を重ねるにつれて次第に起業家的になってきているようですが、さまざまな人やデータ、ツール、プロジェクトとの出会いの積み重ねを反映してそうなったのかもしれません。過去十年間ほど、私は創薬研究に携わる大学の研究者との共同研究を仕事の一部としてきました。これらの共同研究のすべてにおいて私が行ってきたのは、計算的手法を用いて予測を立て、in vitroで確認または否定してもらうことです。これらの仕事を通じて、私は多数の論文を書き、出版してきました。私はまた、最近増えつつある科学者間の共同研究と、異なる視点から出されたアイディアの異種交配を支持しています。こうして私は、製薬技術について数冊の本を編集する機会を得てきました。

本書は、私が共編者としてWileyから出版した4冊目の本となります。本書の構想は、私が共同研究志向の極端に強い研究者としてソフトウェアを使って自分の研究を行い、また他の研究者を助けているうちに、何年もかけて自分の中で膨らんできました。また一方で、生命医科学の分野では共同研究への関心が高まりつつあり、私が知っているのはその一部に過ぎないらしいことも分かってきました。アイディアの草案作りを経て、私は本書の骨子の具体化に着手しました。私の妻と共編者は、主題をMan-Methods-Machineに分類することを提案しました。このアイディアは非常に魅力的でした。それまで各章はランダムに並べられていただけでしたが、このアイディアによってただちに構成が固まりました。一方、Wileyの査読者からのフィードバックによると、私の経験で欠けているギャップを埋めるために、経験の豊かな編者がもう一人必要なようでした。そこで私は、それまでに約一年にわたって共同研究のパートナーであった英国王立化学会のAntony Williamsに加わってもらうことにしました。彼は豊富な人脈も持っており、本書への寄稿者たちを説得する上で大いに役立ちました。

本書の目的は、大規模化した現代の科学研究においては欠かせない一部となっている人的なコラボレーション、データ、インフォーマティクスといった側面を読者に示すことです。本書は、計算ソフトウェアが主要な構成要素となるような研究コラボレーションのための「ハウツー本」として企画されました。本書は、医薬品の研究開発に関わる読者であれば、産学を問わず、また学生から研究グループのリーダーまで幅広く関心をもたれるはずです。

これまでに編集してきたどの本にも言えることですが、執筆を依頼した寄稿者のうちほとんどが個人的に会ったことのない人たちでした。また私の本は、章ごとにさまざまな国の著者から寄稿を受ける傾向がありますが、このことはバランスの取れた視点を取る上で役立ったと思います。そのようにして、会ったこともない人たちから貢献を受けて協調的努力のようなものを成し遂げてこれたことに、私は常に深く感謝しています。依頼していた原稿が届かずに代わりの著者を探す必要が生じたことは、極めてまれにしかありませんでした。私は著者の人たちに章の標題とテーマを提案しますが、必要に応じてそれを修正するのは著者に任せています。一冊の本を作り上げる過程で私が感心するのは、その本が扱う主題の完全な、あるいはおおよそ完全な評価としてまとまることで、それは本の主題が何であれ変わりません。このようにして、それぞれの本は単にある時点での研究の現状を歴史的に記録するだけでなく、その後の研究のためのガイドとして使えるようになります。

今回の本は28の章を収録し、そのうち5章は私自身が共著者となりました。Wileyに企画書として提案した主題のほとんどをカバーすることができ、また企画が認められたのと同じ年のうちに全ての原稿をまとめることができました。本が実際に出版されたのはその翌年(2011年)でした。個人的には、本の企画は着手から一年以内に完成させることが重要と思います。一方で、私はWileyから出そうと思っているある本の企画を何年も抱えていますが、より重要に思える企画が次々に出てきてしまい、その度に先送りする羽目になっています。

自分にとって本書が際立っている点は、われわれのチームがソーシャルメディアを使って本書の出版を告知したことです。私は2011年にブログ(www.collabchem.com)を始めたほか、スライドをSlideShare(www.slideshare.net)にアップして、ツイート(collabchem)もしました。ブログでは編集過程について書き(http://www.collabchem.com/2011/05/19/how-the-book-collaborative-computational-technologies-for-biomedical-research-came-to-fruition/)、また本書で取り上げる主題を説明するためのスライド(http://www.slideshare.net/ekinssean/collaborative-technologies-for-biomedical-research)をまとめました。この記事を書いている現在、私はサンディエゴで開かれるアメリカ化学会に向かうところですが、そこで行う発表では、創薬をよりオープンなものとする方法を議論するために本書をベースに使う予定です(http://www.slideshare.net/ekinssean/acs-collaborative-computational-technologies-for-biomedical-research-an-enabler-of-more-open-drug-discovery)。本書の多くの章では、前競争的なイニシアチブや、欧州で助成を受けている大規模な共同研究(FrameworkやIMI)について、また科学におけるクラウドソーシングの試みについて言及しています。共同的なツール開発、インターネット上で入手可能なデータの増大、open scienceを支持する努力といった本書の論点は、今後の可能性を示唆します。しかるべき環境とデータへのアクセスおよびソフトウェアさえ提供できれば、興味のある誰もがどの国からでも共同研究に参加できるようになるでしょう。そう考えるのは若干楽観的に過ぎるかもしれませんが、そのような状況はたかが5年前には想像すらできなかったほど速いペースで実現されつつあります。私の予測では、今後の薬学の進歩は、共同的な計算ツールを使ってオンラインで実現される方向に向かうでしょう。承認済みの医薬品が可能性として持つ新しい用法を仮想的に特定する技術は、既に複数の研究グループから提示されています。

本書で提示されたアイディアから特に大きな利益を得るのは、顧みられない希少な疾患に関わる研究コミュニティでしょう。そういったコミュニティは、比較的少数の、しかも世界各国に広く分散した研究者から成るのが普通です。研究投資のごく一部しか受け取ることのないこの種の疾患の治療において目に見える進歩を実現するには、関わる研究グループがオープンまたは選択的に、アイディアや資源や計算モデルを共有し合うことが必要です。計算モデルの共有は、この種の希少な疾患についての仮説を迅速に発見し、検証するためには特に重要と思います。

私がWileyから次に出す予定の本では、希少な疾患の研究の現状について論じるつもりです。しかし、その本はまだ企画書の段階で、現在進行中の仕事に過ぎません。この記事を読んでいる読者から、私と協力していただけるか、またはその本に寄稿していただける人が現れることを願っています。自分がこれまでに編集してきた本を読んでみて、私はある種の達成感を感じ、また各分野への理解が寄稿者たちのおかげで飛躍的に高まったことを感じます。今回出版した本書と、私が今後出版に関わる新しい本を楽しんで読んでいただけることを願っています。

(日本語訳: ワイリー・ジャパン)
☆ 著者ブログに掲載された英語版はこちら ⇒ My first blog in Japanese

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