被引用数、h-indexなど計量データに依存した研究者評価に警鐘 - スタンフォード大学化学科前学科長がAngew. Chem. Int. Ed.のEditorialで

Angewandte Chemie International Editionにこのほど寄稿されたEditorialの中で、スタンフォード大学化学科のRichard N. Zare前学科長は、科学者としての優劣をh-index・引用数といったscientometrics(科学計量学)的なデータで評価できると考える風潮を批判し、そういったデータの濫用・誤用に注意を促しています。

 ⇒ Zare, R. N. (2012), Assessing Academic Researchers. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201201011
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このEditorialによると、スタンフォード大学化学科では教員にテニュア(終身雇用権)を与えるかどうかの判断に、次の3つの基準を用いているそうです。

  1. Outstanding departmental citizens(学科の共通利益のために協力できること)
  2. Good teachers(よき教師であること)
  3. Exemplary researchers(模範的な研究者であること)

3つ目の研究者としての評価については、テニュアを持つ学科内の教員たちによる評価も考慮されますが、それ以上に重視されるのが、学科外から選ばれた国内外の専門家10~15人に書いてもらう評価書で、その内容を吟味してテニュアを与えるかどうかの決定が下されるそうです。判断のポイントは、候補者が今後の研究を通じて、化学の発展に対して顕著な貢献をできそうかどうかというところに置かれます。一方、候補者の研究補助金獲得額、論文数、論文が載った雑誌のインパクトファクターなどは、考慮の対象としないそうです。

著者は最近中国とインドで多くの若手研究者と話す機会を持ち、その際に計量的データで研究者の質を評価できるという考えが根強いことに危惧を持ったそうです。著者は、論文の質や独創性ではなく数を問題にするのはおかしいと考えています。また研究者の優劣とh-indexとの間に一定の相関があるのは事実だが、h-indexは将来の業績を予測できる先行指標ではなく、業績の後からついてくる遅行指標であって、若い研究者の評価には適さないと主張しています。

ある論文の被引用数が少ないからといって、その論文が将来にわたって価値を持たないとは限らない例として、著者は理論物理学者Steven WeinbergがPhysical Review Letters誌で1967年に発表した論文を挙げています。この論文は、素粒子論の「標準モデル」の基礎をなすきわめて重要な著作ですが、発表直後の1967・68年には引用ゼロ、1969・70年になってようやく1回ずつ引用されただけでした。この論文はその後注目を集め、現在までに5224回引用され、1979年ノーベル物理学賞受賞につながる業績の一端をなすことになりました。

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