世界で最も美しい蝶と呼ばれる「モルフォ蝶」をご存知でしょうか。中南米に生息するこの蝶は、まばゆく輝く青色の羽根を持ち、その光沢の強烈さにより数km先からでも見える、あるいは低空飛行中の飛行機からでも見えると言われるほどだそうです。自然界にはほかにも、ある種の甲虫や鳥など光沢を放つものがいますが、角度によって虹色のように色が変わって見えるのが普通で、どの角度からでも青色に輝いて見えるモルフォ蝶の羽根は非常にユニークな性質のものです。
モルフォ蝶の羽根の輝きは多くの研究者の関心を集め、研究の対象となってきました。これまでの研究によって、羽根を覆う鱗粉には規則的な溝がついていて、光の干渉を引き起こすことで光沢を生んでいることが明らかになりました。その青い輝きを人工的な材料で再現しようという試みもなされ、部分的には成功した例もありますが、極めて緻密な構造が要求されるためごく小さなサイズのものしか作れず、実用化には遠い状況でした。
このほど韓国・KAISTのJung H. Shin教授らの研究グループは、ケイ素微粒子のベースに二酸化ケイ素と二酸化チタンの多層膜を重ね、モルフォ蝶の色を模した直径6インチ(約15cm)の薄膜の製造に成功、その成果をAdvanced Materials誌で報告しました。分析の結果、その輝く青色はモルフォ蝶の一種Morpho rhetenorに匹敵し、見る角度を変えても色が安定している点においてはむしろ上回ったそうです。折り曲げ可能な薄膜であるため商品のパッケージなどに使いやすく、また起伏のある表面に貼っても青い輝きを保てることから、実用化に大きく近づいたといえそうです。
Advanced Materials誌に掲載された論文はこちらです。(本文を読むにはアクセス権が必要です)
⇒ Chung, K., Yu, S., Heo, C.-J., Shim, J. W., Yang, S.-M., Han, M. G., Lee, H.-S., Jin, Y., Lee, S. Y., Park, N. and Shin, J. H. (2012), Flexible, Angle-Independent, Structural Color Reflectors Inspired by Morpho Butterfly Wings. Adv. Mater., 24: 2375–2379. doi: 10.1002/adma.201200521