糖尿病の新しい治療法として、インスリンを分泌する膵島(pancreatic islet)組織をドナーから取り出して、患者の肝臓内の血管(門脈)に注入する「膵島移植」への期待が高まっています。内科的な治療では血糖のコントロールが難しい重症患者に有効な治療法ですが、課題も残っています。ドナーから摘出した膵島組織の管理が難しく、体外で培養しながら移植を待つ間に細胞機能が低下してしまうこと、また移植を受けた患者の体内で拒絶反応が起こる場合があることが特に大きな難題です。
アラバマ大学バーミングハム校の研究チームは、このほどAdvanced Fuctional Materials誌に発表した論文で、ドナーから取り出した膵島細胞に対して、免疫調節作用を持つ細胞適合性ポリマーで保護コーティングをほどこす方法を報告しました。ラットを使った実験では、コーティングされた膵島細胞は、体外で96時間培養した後でも、インスリン分泌機能の低下が少ないことが確認されました。またこのコーティング材料は、炎症誘発性サイトカインの合成を抑制する免疫調節作用を持ち、拒絶反応を抑えることも確かめられました。糖尿病治療の進歩につながり、また細胞移植治療の分野で材料科学が貢献できる可能性を示す発見といえそうです。
この論文はEarly Viewとしてオンラインで先行公開されています。(本文を読むにはアクセス権が必要です)
⇒ Kozlovskaya, V., Zavgorodnya, O., Chen, Y., Ellis, K., Tse, H. M., Cui, W., Thompson, J. A. and Kharlampieva, E. (2012), Ultrathin Polymeric Coatings Based on Hydrogen-Bonded Polyphenol for Protection of Pancreatic Islet Cells. Adv. Funct. Mater.. doi: 10.1002/adfm.201200138
また、この論文の内容を材料科学ニュースサイトMaterials Viewsが解説しています。
⇒ Materials Views - Curing diabetes, with a little help from polymer science: coating could make widespread treatment a reality