<論文紹介> テロリストによる化学兵器製造を察知するための新たな対策(Angew. Chem. Int. Ed.から)

アブストが怖い!

地下鉄サリン事件(1995年)を経験した日本人として、化学テロの脅威をひときわ身近に感じる方も少なくないでしょう。米ノースウェスタン大学の研究グループは、このほどAngewandte Chemie International Editionに発表した論文で、危険物質を規制するという従来の手法での化学テロ対策の難しさと、規制の網をかいぐぐろうとするテロの芽を摘むための新しいアプローチを解説しています。
 ⇒ Fuller, P. E., Gothard, C. M., Gothard, N. A., Wieckiewicz, A. and Grzybowski, B. A. (2012), Chemical Network Algorithms for the Risk Assessment and Management of Chemical Threats. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201202210 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

国連や各国政府機関は、化学テロに用いられる危険のある毒性物質ならびにその前駆物質の規制・管理に取り組んでいますが、著者らによるとそれだけで十分とは言えません。ある毒性物質やその前駆物質が規制対象となっても、そのさらに前段階の原料が規制なしに広く市販されていて、簡単に合成できることは珍しくないからです。著者らは論文の中で、猛毒のVXガスが、スーパーで売られている台所用品や園芸用肥料を原料にして容易に合成できる例を挙げています。(詳細な工程は安全のため伏せられています)

著者らが提案している対策は、原料の入手しやすさと製造法の容易さの観点から、テロリストが採用する可能性が高い危険な合成経路をランク付けし、それに使われる特定の組み合わせで複数の原料を同時もしくは短期間に購入した人物をチェックするというものです。これを実行に移すためには、多くの販売業者の協力を得て顧客の購買行動をモニターする必要がありますが、著者らは米国の政府機関と協力して実現に向けての取り組みを始めているそうです。

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