液晶の発見から125年|黎明期からの研究開発の歴史をたどるエッセイ (ACIE)

PC・テレビから携帯・スマホの画面まで、私たちの身の回りには「液晶」製品が溢れています。起きている時間の大部分、何らかの液晶画面を見つめているという人も少なくないのではないでしょうか。液晶ディスプレイ(LCD)が製品として私たちの前に登場したのは、1973年にシャープが発売した液晶電卓が最初だそうですが、その原理である液晶という現象の発見となると、今から125年前の1888年まで遡ります。発見から実用化までに、長いタイムラグがあったわけですね。そのような液晶の研究開発史を振り返るエッセイがAngewandte Chemie International Editionに掲載されました。

 ⇒ Geelhaar, T., Griesar, K. and Reckmann, B. (2013), 125 Years of Liquid Crystals—A Scientific Revolution in the Home . Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201301457 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

1888年、プラハのドイツ工科大学に勤める植物学者フリードリッヒ・ライニッツァーは、安息香酸コレステリルが2つの融点を示すことを発見、その現象の解明を託された物理学者オットー・レーマンによって、液晶現象が世に知られることになりました。しかし当初は液晶の実在を疑う学者も多く、レーマンらとの間で激しい論争が繰り広げられました。その後の研究の進展によって、1920年代にはようやく学界で液晶現象への理解が浸透しました。それでもなお、液晶の実用的な用途は見出されず、当時の有力な液晶研究者フォアレンダーでさえ、1924年に「液晶の技術的な応用可能性は全く見当たらない」と語っていたほどでした。

第二次大戦後になって液晶への関心が高まり、米ウェスティングハウス社の技術者ジェームズ・ファーガソンが、1958年に初めて液晶を使った特許を取得しました。これはコレステリック液晶が熱で色変化する性質を利用して温度測定に用いるもので、液晶の実用化という意味で歴史的な第一歩となるものでした。

その後、画像ディスプレイへの応用研究が進み、1990年代にノートPCの普及とともに液晶ディスプレイは一気に世に広まりました。その過程には、液晶研究を物理学的に基礎づけたピエール=ジル・ド・ジェンヌ(1991年ノーベル物理学賞受賞)、液晶材料の研究に寄与したジョージ・ウィリアム・グレイ(1995年京都賞受賞)、初めて液晶ディスプレイを開発したジョージ・ハイルマイヤー (2005年京都賞受賞)といった科学者・技術者らによる数々のブレイクスルーがありました。

そういった液晶研究のターニングポイントを振り返るエッセイの筆頭著者トーマス・ゲールハー氏は、メルク社の液晶技術部門を長年リードしてきた人物です。液晶材料のサプライヤーとして世界でトップシェアを持つメルク社は、ライニッツァーやレーマンに液晶材料の提供や分析を通じて協力するなど、最初期から液晶研究に深い関わりを持ってきたそうです。そのような歴史を持つメルク社が所蔵する史料の中から提供された貴重な写真や図版も、このエッセイの見どころの一つです。

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